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Posted by 月 - 2011.07.09,Sat
忍たまのこへちょSSです。
おk方は以下、続きを読むより











季節は春。淡青が広がる空は、冬の名残りを纏いつつも日に日に濃青に近付く。三寒四温の日々が続き、季節のうつろいを肌で感じる。
そんな季節の中、学園は入学式を迎えた。
忍びを目指す者、精神を養う者、生きる糧にすべく者。様々な思惑により皆が学園の門を叩く。

五年前、同じように学園の門を叩いた長次は、学園が始まる前の最後の休日を使い、図書室の整理を行った。





【六度目の春】





六度目の春の訪れとともに、図書委員会委員長になった長次は、慣れ親しんだ図書室で書物を広げていた。
古い巻物から最新の冊子本、南蛮渡来の羊皮紙本など無数の書物が棚を埋める。
図書室と言うものは、長次にとって最も落ち着ける場所だ。

いくら読んでも飽き足らない書物の数々に、静かな空気。
独特の匂いを持つ空間が心地良く、深く息を吸う。
黴の匂いに草の匂い、甘さと酸っぱさが入り混じった心地良い匂いが胸を満たし、軽い陶酔感に酔い痴れる。

棚の整理を粗方終え、後は日がな一日読書に費やそうと決めていた。
数ある書物の中から、先週取り寄せたばかりの羊皮紙本を手に取り、定位置である委員用の机ではなく、窓枠に腰掛ける。
図書室は閉めているから来客の心配はない、何よりちらちらと視界を流れていく淡紅色に誘われたのだ。

背表紙を撫で、表題を殊更に一文ずつ読む。
南蛮渡来の本は和紙とは違い、羊の革を使った表紙は造りがしっかりして、滑るような触り心地がまた本への期待を膨らませる。
数年前までは全く馴染みがなく、一文字すら読めなかった。だが、どうしても読みたいと言う欲求から、一単語ずつ辞書を引いては読み、また引いては読みを繰り返し、更には嘗ての図書委員長や松千代先生に手助けされながら読むうちに、今では辞書が無くとも大半は読めるようになった。
じっくりと読み進めつつ、真新しい紙と墨の匂いを吸い込み、本の世界へと誘われるままに没頭していった。



*



約半分ほど読み終えた時、影がかかった。影は手元を覆い、文字が読み辛くなる。
日の傾きによるものかと訝しんで顔を上げれば、それはすぐに否定された。

「長次! こんなところに居たのか! 探したぞ」
「小平太……」

原因は簡単なことで、窓枠に足を掛けて覗き込んでいる小平太が影になっているからに他ならなかった。
全く気が付かなかったのは、小平太が音もなく近付いてきた所為か、それともそれ程に夢中になっていた所為かはあまり考えなくはない。どちらにしろ気が付かなかったと言う時点で褒められたものではないのだ。
漏れそうになる溜息を堪えつつ、小平太の足を叩く。

「そこに立つな。入るなら足袋を脱げ。それと、今日は図書室に居ると、今朝言ったはずだぞ」
「あれ、そうだったか?」

ここは平屋のため、例え窓枠に立とうが心配するはずもなく(そもそもかの不運委員会委員長ならともかく、六年生にもなって心配するのも可笑しい話だ)、土足で上がり込むというところに眉を顰めた。
小平太は首を傾げつつも、言われたとおり窓枠に腰掛けた。同じく窓枠に腰掛けている私と向かい合う形になる。
足袋を脱ぎ、丸めて懐に仕舞うのを視界に収めつつ、読んでいた本を閉じる。この分だと、ここに居座るつもりだろう。ならばもう読むことは出来まいと早々に諦めた。

言った、ともう一度言うが、小平太が覚えていないのも予想はできた。今朝言ったとき、小平太は新入生が気になって仕方がないらしく、いつも以上にそわそわと落ち着きがなかった。
その上で自覚しているが、小さい声で言ったことだ。聞こえてはいなかったのだろう。それも仕方の無い事と気にせずに、ちょいちょいと手招きして呼ぶ。

小平太が手招かれるまま躙り寄るのを待って、後ろを向け、と小平太の身体を引いて後ろを向かせると、ばさりと髷が揺れ、それに合わせて花びらが一枚流れた。
何処をどう歩いてきたのか、髷には桜の花びらに始まり、葉っぱや枝が無数に絡まっていた。落ちた花びらを外に捨て、髪に絡まった物をひとつひとつ摘んでは取り払う。

「お、悪いな長次」

小平太は晴れやかに笑うと、そのまま大人しくなった。
自由奔放に広がった小平太の髪は、触り心地が良い。刺すような強さの中にふかふかとした弾力があり、それは人の髪の毛というより、獣の尻尾と言う方が相応しい。
それを密かに気に入っているため、この作業も苦にはならない。
寧ろこの感触を楽しむために、あえてゆっくりと丁寧にやるのだ。

「なぁーちょうじー」

何処か甘さを含ませた声が耳に心地良い。絡まった物を粗方取り除き、手漉きで髪を撫で付ける度に、されるがまま僅かに傾く様がどこか眠そうに見えた。

「さっきの、嘘だからな。私がお前が言う事を聞き逃すわけないだろう? ちゃんと聞こえてた」

思わず、梳いていた手がぴくりと止まった。
微かに動揺する心を落ち着かせるように息を吐き、止まってしまった手を再開させる。そうか、と返事はしたが、自分でも聞き取れない程小さく、これこそ聞こえはしないだろう。

「そうだぞ、長次が言う事なら私は、全部聞き取れる!」

私は長次の事、愛しているからな! と自信に満ち溢れた声が耳朶を擽った。小平太は背中を向けたままだったが、その顔には満面の笑みが浮かんでいるだろうと容易に想像がついた。

途端、小平太に触れている指先からじん……っと熱が上がった気がした。
咄嗟に手を離し、小平太を見ていられず顔を俯かせた。触れていた指先がじんわりと熱くなり、こっそり指先を握り締めて気持ちを誤魔化すが、つま先から頭の天辺まで全身が熱く、それこそ髪の先までじわじわと熱を孕んでいるかのように熱くて仕方ない。

「ははっ、長次、真っ赤だ!」

握り締めた拳しか見えていなかったというのに、視界が小平太でいっぱいになる。小平太はいつの間にか下から私を見上げて、にやり、と含んだ笑みを浮かべると、さらりと私の頬の傷にあわせて撫ぜるように唇を這わせた。

「っ、ん、こら……」
「いいじゃないか、私とお前の仲だろう?」

唇の感触が擽ったく、ざわりと腰が痺れが走ったのを気が付かないふりをして、場所を考えろ、と小平太の顔を押し退ける。
が、小平太はにこにこと全く気にする様子はない。確かに私たちは所謂懇ろな間柄である。だが、だからと言って、恥ずかしくないはずがない。
小平太のこういうところは困ったところだが、更に困ったことに私自身も、然程嫌ってはいないことが更に質が悪い、と思う。所詮、私は小平太に惚れ込んでいて、体裁が悪いから恥ずかしいだけで、愛しいと言う気持ちはあるのだから。

「ぅ、小平太、新入生たちを見に行っていたのではなかったのか?」

これ以上の羞恥に耐え難く、話を逸らす。これ以上は本当に顔から火が出そうだ。

「おぉ、そうだった! 見てきたぞ! 今年の一年は皆個性的で面白そうだった! 委員会に何名か入るだろうし、今から楽しみだ!」

小平太が話に乗ってくれたことに安堵する。小平太は先程までの雰囲気を吹き飛ばして、目を輝かせて一年生の話を始めた。やれ、誰がどうだ、彼がどうしたと、話を聞く限り今年の一年生は多岐多様な者たちばかりらしい。

「そうか……それは、楽しみだ」
「だろう!? 今後委員会で一緒になるだろうし、誰が来るか楽しみだ!」

今後出会う一年生たちのことを考える小平太は喜色満面の笑みを浮かべて、心底楽しそうだ。
小平太も私と同じく、委員長になった。新たな責任を持つ事となるが、それ以上に新たな卵たちを迎える喜びの方が優っているのだろう。
新たな卵たちは学園にどんな風を齎すだろう? 話を聞く限り、一癖ありそうな者たちばかりだ。

委員長になること、それは最後の学園生活の証。

「あと、一年、か……」

感傷的な思いのまま呟いた言葉は、不意に吹いた風が奏でる木々の騒めきに紛れてくれただろうか?
日も陰り始め、少々冷たくなった空気が私たちを撫ぜる。風とともにひらひらと儚い欠片が大きく開いた窓から入り込み、部屋の奥へと流れていくそれを小平太は無造作に掴んだ。小平太の掌に収まるそれは季節の象徴であり、来年見る頃には、卒業することになるのだと思うと何とも言えない感覚に陥る。

「そろそろ、閉めよう」

その気持ちを見ないふりをして、窓を閉めにかかる。まだ、考えないでいたい、と逃げるように。

「ん……な、長次」

窓に手をかけた私の手に、小平太の手が重なった。私の同じ、ごつごつと節榑立ち、傷とマメが目立つ手。
だが無粋な私の手に対し、重ねられた手は私以上に大きく、マメでささくれ立っているにも関わらず、美しい。

小平太は私の手を掬い、痛くない程度に力強く握り締めた。
先程までの笑顔は鳴りを潜め、精悍な顔付きが浮き彫りになる。

「この桜を見るのも六度目だ……今年で、最後になる」

最後、と言う言葉に無意識に眉間に力が入る。あまり聞きたくはないと思うが、掌から伝わる熱が、逃げるのを防いでくれているかのようだ。

「だけど長次。私はお前とまた、こうして同じように桜を見たい」
「……先のことは、分からない。見られない可能性の方が高いだろう」

私もお前と見たい、と言おうとしたが、口から出たのは全く違う言葉だ。ただそれは、決して小平太の言葉を否定したいわけではない。出てしまったのは、私の本心。思わず出てしまった不安の心なのだ。

「長次は私と共に在るのは嫌か? 私はずっとずっと長次と一緒がいい!」

力強く、迷いのない瞳が私を真っ直ぐに見つめる。
何も疑う事などないと、いっそ純粋なまでの思いがじんわりと伝わってくる気がした。

気が付くと、私は小さく応えていた。
私も、お前と一緒がいいと。
小さく小さく、声に出ているのかどうかすら分からない程の声。

だが、小平太には伝わったようで、くしゃりと破顔すると手が強く引き寄せられ、腕の中に閉じ込めるように抱きしめられた。がたいの良い私の身体は、体良く収まりはしないが、それでも小平太は気にしない。
小平太の獣の尻尾のような髪がちくちくと刺さるが、私も全く気にならず、心地良ささえ感じた。

「ずっと、ずっと一緒に居よう、大好きだ、私の、私だけの長次……」

噛み締めるように吐き出された言葉は、心の奥の方へと滑り込んでくる。じわり、と目尻が濡れそうになった。
それは、誰にも、小平太にも見られたくないと、小平太の頭を掴んで抑えつける。

部屋は段々と薄暗くなる中、遠くから子供たちの明るい声が聞こえてくる。
彼らが居る場所と、ここはまるで別空間のような錯覚を覚える。
彼らも何れ、ここを卒業するのだろう。幾多の思いを抱え、あるいは消化して。





先のことなど、分からない。
卒業したらどうなる?
同じ道を歩むのか? 別の道を歩むのか?

それとも、何れ仲違いをして、そのまま離れるかもしれない。

そんなわけもない不安を感じるのは、心の弱さか。
それは忍びになるものとして、あるまじき事だ。

だが、今。せめてこの時だけは。

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